ご挨拶

嶋田先生(写真).JPG 熊本震災から早2か月が経過し,マスコミの話題には殆ど出てこなくなりましたが,現地では数と規模は縮小したものの,まだ時々震度3程度の揺れが思い出したように発生しており,決して終焉はしていない状況です。本震後1500回を超える余震のために揺れには鈍感になってしまったようですが,熊本大学キャンパス内にも座屈して立ち入り禁止になった建物もあり,被害総額150億と算定されたキャンパス復旧への道のりはまだ先行き不確定な状態です。震源に近かった益城町や西原村,南阿蘇村等の被災地を訪れましたが,その悲惨さは惨憺たるもので,被災された住民の方々の心情はいかばかりかと心を痛めると共に,大自然の猛威に改めて脅威を感じています。ご存知のように地下水資源に恵まれている熊本地域は,わが国の中でも突出して地下水利用が盛んな地域で,見えない地下の水資源を持続的に利用するための仕組みづくりにも積極的に取り組んできています。涵養効果の高い白川中流域低地において,転作水田を活用した優れた地下水人工涵養の取り組みが実績を挙げ,国連からの受賞の栄誉に輝いたのはつい数年前の出来事でした。それを契機に地下水水質の持続的維持にまで踏み込んで,地域の主要産業としての農畜産業とタッグを組んだ新たな取り組みとして『地下水と土を育む 農業推進条例』が平成27年3月に施行され,今年度からはその仕組みづくりと立ち上げを行っている最中でした。熊本震災では,家屋の倒壊や道路・橋・トンネル等が多大な被害を受けましたが,農地や農業施設も同様に甚大な被害を受けています。水田農業には灌漑水路は不可欠で,上記の白川中流域低地の水田を潤していた,上井出・下井出(井出とは灌漑水路を指しています)等の主要灌漑水路及びその取水堰が損壊してしまったため,今年度の水田耕作作付は例年の1/3近くにまで減少する見込みと聞いています。地下水涵養のための転作田水張どころではなく,主要産業の米作農業が存亡の危機に直面しているという状況です。白川の上流に当たる阿蘇カルデラ内では,阿蘇大橋が崩落するような大規模崩壊が複数個所で発生したため,これらの斜面崩壊対策工事が完了して白川の流況が安定しないと,灌漑水路取水堰の修復工事には着手できないのではと言われています。地下水涵養効果の高い地域で水田や人工湛水が長期間にわたって停止してしまうと,農業生産や地域経済に加えて地域の地下水資源にも大きな影響を与えることが危惧され始めています。 地層中の間隙を飽和して流動している地下水の器である地下水帯水層は,透水性状の異なる地層構造によって構成されているため,地震に伴う大規模な地殻変動が発生すると当然のことながら入れ物である帯水層にも変化が及び,それに伴って地下水流動も変化する可能性が考えられます。実際熊本地域では,湧水が枯渇したり,新たな湧水が出現したりと色々なことが起こりつつあります。このような自然現象に伴う変化に加えて,前述したような人間活動に伴う水利用の変化もまた地域の水資源には大きく影響をするため,その実態の把握とそれを踏まえた望ましい水資源利用の構築が重要なテーマとなってきます。温暖化に伴う変動が激しくなりつつある水循環の場と,益々高度・複雑化する人間活動の双方をカバーして水循環を科学的に解明することを目指している水文学は,これらの社会的な要請にも重要な情報を提供することができる学問です。若年人口が減って社会が高齢化しつつある我が国においては,大学や学会もまたその構成人口の減少に悩まされており,日本社会全体が次世代に向かっての道を模索している状況が続いています。日本水文科学会も同じ波に巻き込まれており,会員200名前後まで減少してしまった本学会の会長職を今期より新たに引き受けることになりましたが,純粋基礎科学だけではなく社会的な要請も強い水文学にかかわる学術団体の存亡をかけて3年間奮闘してゆきたいと思っています。会員諸氏の全面的なバックアップをよろしくお願いします。

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